平家の鬼子 三、(もの)()(やかた)(1)

 

 牛車はゆっくりと南に下っていった。

やがて京の町並みを過ぎ、芽吹いたばかりの畑も過ぎ、物寂しい野原を横切って、木立に囲まれた古い邸の門をくぐる。

「お帰りなさいませ」

 白髪混じりの女房が数人、牛車の到着を出迎えた。

 下り立ったのは女。

 暗闇でもわかる、(あで)やかな緋色の着物。その裾よりも長くのびた黒髪が、女の足元で蛇のようにとぐろを巻いている。

「お客人を案内(あない)せよ」

 扇で顔を隠し、しわがれた声で女房たちに命じる。

「承知致しました」

 委細心得ているとばかりに、頭を下げる女房たち。

 緋色の着物を翻し、女が姿を消す。

後に残った女房たちは、牛車の中から気を失っているとおぼしき銀髪の少年を運び出し、主人の後を追った。

 

目を覚ました時、重衡は1人だった。

ひどく暗い。わずかに灯台の明かりだけが、辺りの様子を浮かび上がらせている。

そこは見覚えのない部屋の中だった。床には厚くほこりが降り積もり、天井には幾重にも蜘蛛の巣がかかっている。

まるで廃屋のようだ。しんと静かで、空気さえ動かない。

重衡の胸の内では、恐怖と好奇心が相半ばしていた。

ここが噂に聞く、物の怪の館だろうか?

 

 カタリ。

 

 かすかな物音に、心臓が跳ねる。

 誰か居る?

(しとみ)()が揺れている。息をつめて見守る重衡の前で、ゆっくりと音を立てて開いていく。

「―――」

 聞こえた声に、重衡は思わず飛び上がった。それは、重衡のよく知っている声だった――。




第三話 物の怪の館(2) に進む



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