還内府の章 九、一泊二日の旅(2)

 

 そんな物騒な会話を交わした他は、旅は平穏だった。

道なき道を行く過酷な旅を想像していた将臣は、やや肩透かしをくらった気分だった。

目指す京へは、ちゃんと街道が通っていたのだ。しかも街道沿いには、ごくごく小さいながら、宿場町まである。

あの行列の規模を思い浮かべると、全員が屋根のある場所で眠れたとは思えない。

しかし、清盛の客人という身分の将臣は、ちゃんと宿をあてがわれた。

その上、同室の重衡が「知り合いに会う」と言って姿を消したので、個室を与えられたようなものだった。

8畳ほどの広さの板張りの部屋で、寝る場所にだけ畳が敷いてある。他は、古びた火鉢が1つ、置いてあるだけ。

壁は薄く、隣室の話し声が素通しだ。いや、道行く人々のにぎわいまでが、そのまま部屋の中に聞こえてきた。

時刻は、間もなく日が暮れようかという頃。

体は疲れていたし、部屋でのんびりしていてもよかったのだが……寝るにはまだ早い。

それに、異世界の町を見物する機会というのも、そうそうあるものではない。

一休みしてから、将臣は町に繰り出した。

街道を中心に、宿や露店が軒を連ねている。

どの宿からも、にぎやかな女性の笑い声がした。旅人相手に、歌や踊りを披露する遊女たちだと、確か重衡が言っていた気がする。

かなり人通りが多い。もっとも、その大半は、旅の同行者である武士たちだった。

素朴な民芸品のようなものを売っている露店に、維盛が居るのを見かけた。

先遣隊への同行は、本人たっての希望らしい。その理由は、都で待つ妻子のもとに一刻も早く帰るためなのだと、重衡から聞いた。

「維盛殿は、大変、家族思いなのですよ」

とも言っていた。

家族への土産だろうか。熱心に露店の売り物を選んでおり、将臣が見ていることにも気づいていない。

どこからか、琵琶の音が聞こえてきた。

静かで物寂しい音色――宴の時、経正が弾いた曲に似ている。

道行く人々が、まるで背中を押されたように、足を速めて通り過ぎていく。

なんとなく落ち着かない気分になって、将臣も宿に引き上げることにした。……ちなみに重衡は、明け方まで戻ってこなかった。




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